
女流棋士発足50周年記念パーティー
2024年6月16日、将棋の女流棋士発足50周年記念パーティーが開催されました。日本将棋連盟とLPSA所属の女流棋士が参加しました(女流制度は1972年に発足)。YouTubeでもその模様が公開されており、視聴可能です。
パーティーは、羽生善治会長の挨拶に始まり、藤井聡太八冠のビデオレターなど、盛りだくさんの内容でした。藤井八冠は、「将棋アプリで女流棋士の対局をチェックしている」とビデオレターで語っておられましたが、彼一流の気遣いから出た言葉でしょう。タイトル戦、一般棋戦、免状へのサイン、公式行事への出席など超多忙な藤井八冠においては、格落ちの女流の棋譜を確認する余裕はなさそうです。
2007年に日本将棋連盟から独立して設立されたLPSA所属の女流棋士も出席していました。彼女たちは独立前には日本将棋連盟に所属していた経緯があるため、その縁で招待されたものと考えられます。
なお、LPSAと日本将棋連盟は、設立当初は運営方針や制度を巡って対立関係にありましたが、その後は関係が改善され、現在では協調路線で運営されています。
トークショーの気になる発言
トークショーでは、男性プロに公式戦で初勝利を収めたことを心の支えとしている中井広恵女流六段(54)が、今後の女流棋士への希望として「打倒藤井八冠」を掲げました。「これしかないでしょう!」と強調しましたが、将棋ウォッチャーの私は少々引っかかりました。
なぜなら、藤井八冠が所属する順位戦リーグと女流棋士枠では雲泥の実力の差があるからです。両者はレギュレーションが異なるため対等に対戦することに違和感を感じます。
枠外から聡太八冠に挑戦なんて失礼
中井広恵女流六段(54)が、今後の女流棋士への目標として「打倒藤井八冠」を掲げました。この発言については、受け取り方によっては藤井八冠へのリスペクトが十分に感じられないと捉えられる可能性があります。
日本将棋連盟傘下の棋士は、制度上いくつかの区分に分かれています。いわゆる「女流棋士」は、奨励会で四段に昇段してプロ棋士となるルートとは別に設けられた制度であり、主に女性を対象とした枠組みです。現行制度において、同様の枠組みは男性には存在していません。
一方で、奨励会に所属し四段に昇段すれば、性別に関係なく棋士として公式戦に参加することが可能であり、この点において制度上は平等性が担保されています。ただし、これまで女性が四段に昇段した事例がないため、競技機会の確保という観点から「女流棋士」という制度が設けられていると考えられます。
日本将棋連盟は完全実力主義で運営されている(女流は枠外)
*定員の()カッコは2024年度の在籍人数
*A級~C2は、6月~3月にかけてリーグ戦を行い順位を決める
| ランク | 定員 | 昇級 | 降級 | 説明 | |
| 名人 | 1 | A級優勝者に勝った棋士(B1~C2は名人への挑戦権なし)、名人が負けると当年度はA級序列1位に配置されリーグ戦を戦う | |||
| A級 | 10 | 2 | 定員10人:昇級なし、下位2名降級 A級の優勝者は名人に挑戦。名人と七番勝負を行い、4勝したほうが名人になる。 | ||
| B級1組 | 13 | 2 | 3 | 定員13人:上位2名A級昇級、下位3名B2降級 13人の棋士による総当り戦 | |
| B級2組 | (28) | 3 | 1人10局対局、定員なし。 成績上位者3名はB級1組に昇級。リーグ戦成績の全勝者は全勝者全員が昇級する。成績下位者は降級点が付く。降級点を2つとるとC級1組に降級します。 | ||
| C級1組 | (31) | 3 | 1人10局対局、定員なし。 成績上位者3名はB級2組に昇級。リーグ戦成績の全勝者は全勝者全員が昇級する。成績下位者は降級点が付く。降級点を2つとるとC級2組に降級します。 | ||
| C級2組 | (55) | 3 | 1人10局対局、定員なし。 成績上位者3名はC級1組に昇級。リーグ戦成績の全勝者は全勝者全員が昇級する。成績下位者は降級点が付く。降級点を3つとるとフリークラスに降級します。 | ||
| フリークラス(降級) | (38) | 60歳定年引退、10年以内にC2昇級できないと引退 C級2組の棋士が降級点を3つとるとフリークラスに降級する。奨励会三段リーグで次点を2回取った棋士はフリークラスに編入される権利を得る。順位戦は対局できないが、順位戦以外の棋戦は対局できる。 フリークラスからC級2組への昇級規定あり。 | |||
| フリークラス(宣言) | なし | 65歳定年引退 B級1組以下の棋士が順位戦終了後から年度末の間に「フリークラス宣言」をすると、「フリークラス棋士」となる。「フリークラス棋士」は順位戦を対局しません。また、一度宣言すると順位戦に復帰することはできません。順位戦以外の棋戦は対局できます。 | |||
| 奨励会 | なし | 三段から6級までで構成。 満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる。三段リーグ戦で、2回次点を取った者はフリークラスに編入することができる。三段は東西のリーグ戦を半年単位で行い、上位二名が四段に昇段し、正式に棋士となる。 | |||
| 女流 | (72) | 女性限定の制度 奨励会6級以上2級以下で退会→女流2級の資格を得る |
図解:日本将棋連盟 棋士のヒエラルキー
前項の説明と以下の図から分かる通り、女流棋士が藤井八冠と対等に対戦するのはチートです。挑戦するなら、奨励会に所属して四段に昇段して棋士になってからにしてほしい。
現状は、タイトル戦/一般棋戦 共に女流棋士に門戸が開かれており、ラッキーパンチで棋士が女流に負ける場面が毎年数件出現します。特に持ち時間の短い銀河戦で顕著です。
果てしなく遠い名人への道
名人戦を例にとると、順位戦リーグに所属してA級まで駆け上り、さらにA級リーグで優勝して初めて藤井名人に挑戦することができるのです。四段に昇段して最短で5年必要です。藤井名人は6年かかりました。生涯を通じてC級2組から昇級せずに引退する棋士もおられます。
順位戦リーグに所属すると、各ランクに応じて参稼報酬(給料みたいなもの)が支給されます。名人で月100万、A級80万と言われています。フリークラスに降級すると参稼報酬がなくなるため大幅な収入ダウンとなります。
*奨励会以下はアマチュアです。(棋士と名乗れない)
*女流は奨励会以下の実力のため順位戦リーグの棋士と対戦するのは違和感がある

タイトル戦、一般棋戦の中で女流枠のある棋戦
*名人戦と王将戦は制度上女流は参加できない、()カッコは女流の定員- 竜王戦(4)
- 王位戦(2)
- 叡王戦(1)
- 王座戦(4)
- 棋王戦(1)
- 棋聖戦(2)
- NHK杯(1)
- 銀河戦(2)
- 朝日杯将棋オープン戦(3)
- 新人王戦(4)
- 加古川青流戦(2)
あとがき
女流棋士発足50周年記念パーティーは、日本将棋界の歴史を振り返ると同時に、現在の制度や立ち位置を改めて浮き彫りにする場でもありました。日本将棋連盟とLPSAという、かつて対立関係にあった組織の女流棋士が同じ場に集ったことは、時代の変化と関係修復を象徴する出来事と言えるでしょう。
一方で、トークショーにおける「打倒・藤井聡太八冠」という発言に象徴されるように、女流棋士と棋士の制度的・実力的な隔たりは依然として大きく、その差をどのように捉えるかは今後も議論が続くテーマです。制度上は交わる機会が存在するものの、本質的には異なるレイヤーで競技が行われている点は無視できません。
将棋界は厳格な実力主義を基盤とする世界であり、その中で女流制度がどのような役割を担うべきかは、歴史的経緯と現実のバランスの上に成り立っています。今回の記念行事は祝賀であると同時に、そうした構造を再確認する契機でもありました。
今後、女流棋士がどのような形で将棋界に価値を提供し続けるのか。競技としての純粋性と、多様性の受容という二つの軸をどう調和させるかが、次の50年に向けた重要な課題となるでしょう。
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